【ピンクリボン】遺伝性乳がん卵巣がん症候群
10月はピンクリボン月間です。当院では、より多くの方を乳がんから守るべく、乳がんの新たな遺伝子検査を導入いたしました。
遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)について
がんの一部は遺伝が関係しています
親戚の中にがんが多い方は、「うちの家族はがん家系で、もしかしたら遺伝でしょうか?」とおっしゃるかもしれません。がんの発症には複雑な要因が重なり合っており、例えばがんが多い家系でも遺伝ではなく、似たような環境で育っていることで共通の環境的因子に暴露されているためであることも多々あります。しかし、ある部分でがんの発症に遺伝的な要因が関与していることは事実であり、その関連が明らかにされつつあります。
遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)はBRCA遺伝子の変異によって起こります
その中でも、最も研究が進んでいる遺伝性腫瘍の一つが 、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)です。HBOCの患者さんではBRCA1とBRCA2という遺伝子に変異が認められます。この遺伝子に変異がある人は、普通の人よりはるかに高い確率で乳がん、卵巣がんに発症しやすく、また前立腺がんとすい臓がんも変異のない人よりも高い確率で発症します(表1)。女性の乳がんの場合、日本人一般で、生涯に乳がんにかかる罹患率は約9%ですが、BRCA1に病的変異がみられる人は46−87%、BRCA2の病的変異では38-84%と、報告によって差はあるものの変異のない人の4倍から9倍ぐらい高い確率で発症しています。卵巣がんでは一般罹患率1%に対して、BRCA1の変異で39-63%、BRCA2の変異で16.5-27%と言われています。
さらに、表には示していませんが、乳がん患者さんの約5%、卵巣がん患者さんの約10%にBRCA遺伝子変異があると報告されています。
BRCA遺伝子はDNAの損傷を修復する、いわゆるがん抑制遺伝子です
どうして、この2つの遺伝子に異常があるとがんが発症しやすくなるのでしょうか?BRCA1、BRCA2遺伝子から作られるタンパク質は、DNAが傷ついたときに正常に修復するなどの働きがあります。これらの遺伝子のどちらかに変異があって、タンパク質が作られなかったり、働かなかったりすると、傷ついたDNAの修復ができず、さらに他の遺伝子の変異が起きやすくなってがんが起こる確率が高まります。
HBOCの遺伝の伝わり方
遺伝子はたんぱく質を作る設計図で、染色体というDNAの長い鎖の中に組み入れられています。ヒトの場合、父親と母親から23本ずつの染色体を受け継ぎ、ひとつのタンパク質の設計図を両親から一つずつ合わせて二つ持っていることになります。両親から受け継いだ2つのBRCA1やBRCA2遺伝子のうちどちらか一つに病的変異があるとHBOCになります。例えば、あなたの父親が、あなたの祖父または祖母から変異したBRCA1遺伝子を一つ受け継ぎ、あなたの母親は二本の染色体とも正常なBRCA1を持っていれば、あなたが変異したBRCA1 を受け取る確率は2分の1です。すなわち、あなたがHBOCとなる確率は2分の1ということです(図1)。
HBOCの遺伝子変異は一生持ち続ける生まれつきのものです
BRCA遺伝子などのがん遺伝子変異は両親から受け継いだ生まれつきの遺伝子変異でその人間の個体全部の細胞に存在します。つまり、その変異を一生持ち続けることになります。ここが、がんゲノム医療で調べられる遺伝子変異と基本的に違うところです。ゲノム医療では、がんの中に起きた遺伝子の変異をもとに特異的な分子をターゲットにして治療を行います。遺伝子変異はがん細胞の中のみで起こっており、その変異があると効果が大きく期待できる治療が存在することがあります。つまり、調べる細胞はがん細胞でなければいけません。これにたいして、BRCAなどのがん遺伝子検査は体のどの部分の体細胞にも変異があるので、検体はどの部分でもよいことになります。一般には血液を採取して調べます。
BRCA遺伝子変異のある がん未発症患者さんのフォローアップ(サーベイランス)
BRCA遺伝子の話をするときによく耳にする名前がアジェリーナジョリーというアメリカの女優さんです。彼女のBRCA1遺伝子には変異があることが見つかりました。アンジェリーナの選択は予防的に乳房と卵巣を摘出することでした。その選択に 間違いはありません。欧米では、未発症BRCA遺伝子変異保持者の乳がんリスクに対して、リスク低減手術を含め、検診サーベイランス、薬物による化学予防などを行うことが標準治療となりつつあります。
銀座医院では乳腺外来を受け持っている戸崎医師と アメリカで長年がん遺伝子の研究に携わっていた竹田院長とが、BRCA遺伝子についての相談、検査、結果の説明を行い、変異が見つかった際の綿密なサーベイランスシステムを構築し、フォローアップを行う用意を整えております。あなたの近親(お母さんや姉妹)の方に40歳未満で乳がん、卵巣がんと診断された方がいらっしゃったり、お父様、兄弟に若年で前立腺がんと診断されたり、または男性乳がんと診断された方、どなたか若い年代ですい臓がんになられた方がいらっしゃるなど、そのほか表2にあるような項目にお心当たりのあるかたは、がん遺伝子検査をお受けになることを考えてみてください。